⑥地下の虚空会のこと

 1987年にインド一人旅をした時に深く印象に残った遺跡が、西インドのアジャンタ・エローラの石窟寺院群である。釈尊滅後、数世紀に亘って仏教徒が岩山を削り寺院や仏像を造った。その時代は出家第一の上座部仏教の時代、在家の菩薩衆による大乗仏教の時代、そして出家と在家の一仏乗を説いた仏教の最終章「法華経」編纂の紀元一世紀頃の時代、そして復興してきたヒンズー教に対抗する密教の時代。最後はヒンズー教の神々の寺院群とインドの宗教の歴史を刻んでいるのである。

 

 サンスクリット原典を研究された植野雅俊先生の説によれば、仏教原点への復興運動が「法華経」編纂の目的であったと言われる。それは仏滅後500年の北西インドで興ったとされる。それが現在のインドのどの地方であったか定かにされていないが、アジャンタ・エローラという人間の可能性を超えるエネルギーで造られた場所であっても良いのでないかと思うのである。

 

 法華経に初めて登場するのが上行・無辺行・浄行・安立行の四大菩薩を代表とする六万のガンジス河の砂の数程の地涌の菩薩たちである。釈尊の虚空会に於ける呼びかけに応じて大地から涌き出てきた菩薩たちが待機していたのが地下の虚空会である。常識的には地球の地表の下には岩盤の下に高温のマグマが溜まっている。法華経編纂の菩薩たちが指し示す地下の虚空会とは岩山を穿って形成した修行の道場であるかもしれない。