①石山寺多宝塔~起

 現代科学は量子論の時代に入りました。私たちが目の前に展開する現実と認識している世界(色)は実は仮想世界(空)であると教えてくれるのが有名な「色即是空」という般若心経の半偈です。そして如来は「空即是色」と諭します。仮想世界の実態である神秘世界(空)が物質世界(色)として顕われているのだと。

 

 法華経の経文に「信解(しんげ)」という言葉があります。法華経に説かれる世界をそのまま信じて理解し受け止めようとする姿勢です。これに対し「智解」とは文献学的に法華経成立の過程を分析し、釈尊滅後の500年に仏教の最終章として編纂されたと知り、法華経に展開する世界を壮大な戯曲として受け止める姿勢です。

 

 さて、たくさんの寺院に多宝塔がありますが、日本最古の多宝塔として知られているのが石山寺多宝塔です。石山寺は滋賀県大津市にある真言宗の寺院です。この石山寺の多宝塔は、源頼朝による寄進だと伝えられています。頼朝も法華経を読んだのでしょうか。多宝塔は法華経の「見宝塔品第十一」に於いて法華経説法の霊鷲山に大地より空中に出現し、塔中の多宝如来が「善哉善哉 釈迦牟尼世尊 所説の如きは 皆是真実なり」と証明をします。そして半座を空けて釈尊を多宝塔に招き入れ、二仏並座して釈尊の虚空会の説法が始まるのです。

 

 奥州衣川での義経の自死後、一人持仏堂で経を読んだであろう源氏の棟梁である頼朝は、その後石山寺に多宝塔を寄進します。霊界は完全理想の世界で一切の矛盾や葛藤は在りません。生死の苦悩や善悪の区別は在りません。「生死即涅槃」であり「煩悩即菩提」なのです。法華経の経文を造像化すると、二仏並座の多宝塔で象徴されます。これは霊界としての我此土安穏(がしどあんのん)なる一元世界が矛盾と葛藤の大火所焼時(だいかしょしょうじ)の二元世界に分離したことをあらわしています。今、頼朝は霊山浄土で多宝塔に向かい安処法座(あんじょほうざ)されていることを祈ります。