八日 仏の大慈

観心本尊抄(かんじんほんぞんしょう)にいわく

 天晴れぬれば地明らかなり。法華(ほっけ)を識(し)る者は世法(せほう)を得(う)べきか。

 

 一念三千を識らざる者には仏大慈悲を起し、五字の内の此の珠(たま)をつつみ、

 

 末代幼稚の頸(くび)にかけさしめたもう。

 

 四大菩薩の此の人を守護したまわんこと、大公周公の成王(せいおう)を摂扶(しょうぶ)し、

 

 四皓(しこう)が恵帝(けいてい)に侍奉(じぶ)せしに異ならざるものなり。

 

(1 52歳 2 文永10年 3 佐渡一谷 4 720頁)

口語訳「日蓮聖人全集」より

 天が晴れれば地が非常に明るくなる。それと同様に法華経の真髄を識る者は、天変地夭などの世法(世間法)における出来事の由来の根本を知ることができるのである。

 

 「一念三千」の法門を識ることができない者に対しては、教主釈尊が大いなる慈非の手を差し伸べ、妙法蓮華経という五字のなかにこの珠をつつみ、末代のいとけなき凡愚の衆生の頸に懸けさせたもうたのである。

 

 四大菩薩がこの人を守護するゆえんは、中国古代において(周の武帝の臣下であった)太公望や周公旦が(幼い)成王(の臣下となって政務)を助け、商山に隠れ住んだ四人の白髪の賢者(東園公(とうえんこう)・綺里季(きりき)・夏黄公(かこうこう)・戸里(ろくり)先生)が(漢の枯祖から譲位されて第二祖となった)幼い恵帝に仕えたのとまったく異なることがないのである。

一念三千「日蓮宗事典」抜粋より

 一念にも三千世間を本具するという意味を表す。出典は天台大師智顗説の『摩訶止観』巻五にあり、止観一〇章の中の第七正修止観章で十境を述べる中の第一観陰入界境を十乗にかけて行ぜしめる中の第一観不思議境の理境結成の文に「夫れ一心に十法界を具す。一法界に又十法界を具すれば百法界なり。一界に三十種の世間を具すれば、百法界に即ち三千種の世間を具す。此の三千、一念の心に在り。若し心無くんばやみなん。介爾も心有れば即ち三千を具す。乃至、所以に称して不可思議境と為す。意此に在り」とあるのがそれである。

四大菩薩「日蓮宗事典」抜粋より

 法華経涌出品おいて、教主釈尊の召命に応じて大地より涌出した本化地涌の菩薩の上首たる四人の菩薩をいう。即ち上行・無辺行・浄行・安立行の四菩薩である。経文に「是の菩薩衆の中に四導師あり。一を上行と名け、二を無辺行と名け、三を浄行と名け、四を安立行と名く、是の四菩薩、其の衆中に於いて最もこれ上首唱導の師なり」とある。

身延山思親閣より望む富士山
身延山思親閣より望む富士山