十六日 実乗(じつじょう)の一善(いちぜん)

立正安国論(りっしょうあんこくろん)にいわく

 汝(なんじ)、早く信仰の寸心(すんしん)を改めて、

 

 速(すみや)かに実乗の一善に帰(き)せよ。

 

 然(しか)れば則(すなわ)ち三界(さんがい)は皆(みな)仏国(ぶっこく)也。

 

 仏国それ衰(おとろ)えん哉(や)。

 

 十方(じっぽう)は悉く宝土(ほうど)也。

 

 宝土なんぞ壊(やぶ)れん哉。

 

 国に衰微(すいび)無く土(ど)に破壊(はえ)無くんば、

 

 身はこれ安全にして、心はこれ禅定ならん。

 

 此の詞(ことば)、この言(こと)、信ずべく崇(あが)むべし。

 

(1 39歳 2 文応元年 3 鎌倉 4 226頁)

 

 

口語訳「日蓮聖人全集」より

 貴殿は一刻も早く邪(よこし)まな信仰を捨てて、ただちに唯一真実の教えである法華経に帰依しなさい。そうするならば、この世界はそのまま仏の国となります。仏の国は決して衰えることはありません。十方の世界はそのまま浄土となります。浄土は決して破壊されることはありません。国が衰えることなく、世界が破壊されなければ、わが身は安全であり、心は平和でありましょう。この言葉は真実であります。信じなければなりません、崇めなければなりません。

 

三界「日蓮宗事典」抜粋より

 梵語trayo dha ̄tavahの訳。迷の衆生が生死を繰返す境界で、欲界・色界・無色界の三に区分される。三界は迷の因果が尽きないことから三有(さんぬ)ともいう。また輪廻することから六道(六趣)・五道(五趣)ともいい、住所の内容から九地に細分し、罪福の軽重を二十五に分類することから二十五有ともいう。しかしいずれも十界の中の下六界(天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)に即して種々細分したに過ぎない。

 

○欲界とは、食欲・性欲・睡眠欲等の種々の欲望が渦巻く境界のこと。六道の中の地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界(二十五有では人四洲といって東勝身洲・南贍浮洲・西牛貨洲・北倶盧洲の四に分類される)、及び天界の中の六欲天(四天王天・漁利天・夜摩天・兜率天・化楽天・他化自在天の六天)がある。

 

○色界とは、物質に対する欲のない境界。ここは欲望の支配から離れた清い境界であるが、いまだ色法、即ち物質の制約を受ける境界である。四禅天、即ち初禅の三天、二禅の三天、三禅の三天、四禅の九天の計十八天がある。二十五有で分類する時は、初禅の大梵天と四禅の五那含天及び無想天を別出して三となす

 

○無色界とは、色法即ち物質のない境界で、欲望と物質の制約を超越した純粋な精神世界のこと。天界の最上部で、空処(空無辺処の略)、識処(識無辺処の略)、無所有処、非非想処(非想非非想処の略)等の四がある。